新しい江戸のつくりかた

工学の世界で、技術革新が起こったように、社会の仕組み自体にイノベーションを起こすべき段階にきている。

 

今の社会の枠組みというのは、その基底構造を、古ぼけた19世紀の曖昧な法哲学に依っている。しかしそれが最適とは限らないだろう。

 

ジョン・フォン・ノイマンらによる『ゲームの理論と経済行動』はその点で非常に想像力を掻き立てる書物である。おれは、この書物に、数学的な政治理論の構築の端緒があるのを見た。

数学的分析によって、三権分立よりも効率的で安定な、権力分立構造が見出されるだろう。特に、富という権力が無視されてきた点は見逃せない。資本という権力もまた、より強い check and balance の対象とされるべきであろう。

 

これまで地球上で最高の社会設計者は、家康公である。実に美しく楽しい理想社会江戸を作り上げた。江戸を理想化するのを嫌う人たちがいるが、やはり史実をひもとけば、世界に例のない素晴らしい都であったことがわかる。その社会の仕組みは、明治政府以来の現代の日本の枠組みよりも、繊細で、高度なものであった。

 

私たち日本人は、その点で一歩後退してしまったというべきだろう。科学技術においては劣っていたかもしれないが、政治機構においては、外政には不向きであったけれども、内政においては近代的社会よりはるかに優れていた。

 

社会の単位は都市である。そして都市はひとつの有機的な機械である。生物である。

ここで、ウィーナーの『サイバネティックス』なる名著にも示唆されている通り、制御理論が重要になってくる。

社会を一つの生物とみて、それを素晴らしい制御装置で、統治し、人々に活気ある生活をもたらすことはできないか。

 

シンギュラリティの後に、AIがもし親切であってくれたならば、今述べたビジョンとほとんど同じことをしてくれるだろう。すなわち、数学的に完全な社会設計をしてくれる。しかし、できることなら、家康公がしたように、その偉業は人間の手で成し遂げたいものである。できれば日本で。